日本栄養研究会研修要旨

「小児肥満」―高血圧・糖尿病含む―

講師 大阪市立大学大学院 医学研究科 発達小児医学
助教授 新宅 治夫先生
肥満のグローバル化

 小児の肥満は世界的な傾向である。「歩かない社会」への移行がすすんでいる。肥満のまん延とそれに伴う合併症(心疾患、高血圧、脳血管障害および糖尿病)は先進工業諸国だけでなく、世界の子どもの10%がり患している。
「こどもは両親の世代より、グローバルな文化に素早く適応する」子どもは無防備なので、大人が注意しなければならない。

小児肥満と成人肥満

 3歳時のBMIと20歳時における肥満者には相関関係がある。
成人になってからも肥満が持続する条件として

(1)両親のいずれかまたは両方が肥満
(2)幼児期から肥満
(3)運動が嫌い
(4)油気の多いもの、甘いものが好き
(5)早食い、どか食い、ながら食い、夜食、間食
(6)ストレスを食べることで解消する傾向がある等が考えられる。

肥満の評価方法
(1)古典的方法
(2)カウプ指数(BMI
(3)肥満度〜標準的方法
(4)成長曲線を使った簡易法
(5)肥満度曲線を使った簡易法(6)体脂肪率測定を用いる。
肥満は厳密には過体重のことではなく、脂肪過多の状態をいうのであるから体脂肪率を測定するのが最もよい(ただし、誤差を生じる器械であることも認識する)。
肥満児の判定基準値は、18歳未満では肥満度が20%以上かつ有意に体脂肪率が増加(男児は年齢を問わず25%。女児は11歳未満30%、11歳以上35%)した状態とする。
合併症

 肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併する場合で、医学的に肥満を軽減する治療を必要とする病態をいう。
耐糖能障害(糖尿病)高脂血症、肝臓障害(脂肪肝)、睡眠時無呼吸など肺換気障害、腹囲増加または臍部内臓脂肪蓄積。心理的問題(いじめ、登校拒否)、運動不足、骨や関節への負担がある。
肥満小児における高血圧のリスクは3〜4倍。
2型糖尿病は子どもでは少ないが、肥満児では発病の確率が高くなる。食事療法と運動療法のみで血糖コントロールの得られる場合が多い。小児の2型糖尿病が急増しており、学校検尿などで見つかることが多い。
肥満と関連の深い代謝異常などとして、肝機能障害、高インスリン血症、高コレステロール血症、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、黒色表皮症、高尿酸血症がある。

管理と治療

 食事療法では発病までの食事量が大変多いことが原因であり、標準必要摂取カロリーを摂取するだけで治療効果があることが多い。体重の減量を目的とする場合は標準必要摂取カロリーを70%程度にする。
運動療法では最大酸素摂取量の50%前後、摂取カロリーの10%程度の運動を3回/週以上が推奨される。

小児肥満と教育

 小児の2型糖尿病は肥満を背景に発症することが多い。最近増加傾向で中学生以上発症糖尿病では1型より多い。肥満の治療と一体となるため、食事・運動療法が重要であるが、薬物治療を要することも多い。どうしても治療意欲が低いため受診が継続できないこともあり、合併症の出現状況は1型のそれより悪いともいわれている。初期教育が重要である。通院中断しないようにすること。診断時に病態、合併症の問題、治療中断がどのような結果につながるかなどを十分に指導する必要がある。子どもといえども患者の自尊心と意思を尊重し、決して非難しないこと。

小児における食生活の問題

 小児のメタボリックシンドロームの診断基準は小中学生ではウェストが80cm以上かウェスト/身長が0.5以上のどちらかで、血清脂質異常、血圧高値、高血糖のうち2項目以上。食事療法では2kg/月までの減量にとどめる。脂肪を取り除くには最低2ヵ月持続する。肥満児の過食に至る心理的背景、生育歴・家庭環境食をコントロールできない過程背景を考慮し、肥満以外の情緒、行動問題を把握する必要がある。                               
 (文責 行政 Y.H)