肝硬変の病態と栄養療法

星ヶ丘厚生年金病院 消化器科部長 栄養部長 加知 一友 著

 肝臓は糖質、蛋白質、脂質の合成と分解、ビタミンの貯蔵と活性化などの栄養素の代謝を行う主要な臓器で、種々の肝臓病では、肝機能の低下につれて、さまざまな栄養代謝異常が出現する。本稿では、日常臨床で遭遇する機会の多い非代償性肝硬変での病態と栄養療法について述べる。
肝硬変の栄養異常に対する治療の基本は食事療法である。代償性肝硬変では、総エネルギー30〜35kcal/kg/日、蛋白質1.2〜1.5g/kg/日でバランスのよい食事を適量にとるという一般的な注意でよい。腹水、黄疸、肝性脳症などを合併する非代償性肝硬変では、血中アンモニアの上昇や意識障害(肝性脳症)がある場合、その誘因となる蛋白摂取量を0.8〜1.0 g/kg/日に制限する必要がある。また、腹水や浮腫を伴う場合、塩分を3〜5 g/日に制限する。便秘や肝性脳症の予防のため食物繊維を十分に摂るようにする。
肝硬変患者では充分な食事をしていても栄養状態が悪いことがある。この原因の一つは血液中の分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が減少することである。機能の低下した肝臓の代わりに筋肉でアンモニアが処理されるが、その時に分岐鎖アミノ酸が使われる。また、糖をエネルギーとして利用できない時に分岐鎖アミノ酸がエネルギー源となる。食品から分岐鎖アミノ酸を補充するには限界があり、このような場合に経口分岐鎖アミノ酸顆粒製剤(リーバクト顆粒)や肝不全用経腸栄養製剤(アミノレバンEN、ヘパンED)で分岐鎖アミノ酸を補充すれば、肝臓で作られる蛋白質の合成が促進され、栄養状態が改善する。
リーバクト顆粒は分岐鎖アミノ酸だけの組成で常用投与量(3包/日)により12g の分岐鎖アミノ酸の摂取が可能であり、適応症は非代償性肝硬変患者における低アルブミン血症となっている。
肝不全用経腸栄養製剤(アミノレバンEN、ヘパンED)は分岐鎖アミノ酸の他に蛋白質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルを含み、適応症は肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善となっている。アミノレバンENは一回量として一包(50g)を180mlの微温湯に溶解し、1日3回服用する。本剤の一日量(150g)で補充される蛋白質は40.5g、分岐鎖アミノ酸量は16.7g、総熱量は630kcalである。ヘパンEDは一回量として一包(80g)を250mlの微温湯に溶解し、1日2回服用する。本剤の一日量(160g)で補充される蛋白質は22.4g、分岐鎖アミノ酸量は10.9g、総熱量は620kcalである。患者の好みに応じてフレーバーや繊維分を含む野菜等を混ぜて良いが,果物の生ジュースは酸性のため,混ぜるとゲル化するので避けるべきである。アミノレバンENやヘパンEDを用いる時は、蛋白質約22〜40g、熱量約600kcalが食事に加わることを考慮し食事の組成をきめなければならない。従って、肝不全用経腸栄養製剤服用患者の栄養指導時には治療食と肝不全用経腸栄養製剤をあわせて説明する必要がある。
非代償性肝硬変においては、長時間の空腹は肝臓でのグリコーゲンの枯渇をきたし、早朝に飢餓状態となり、栄養障害をきたす。就寝前に少量の夜食の摂食すること(Late evening snack)によって早朝に飢餓状態となるのを防ぐことができる。Late evening snackとしては、糖質中心で蛋白質、脂質も含み、分岐鎖アミノ酸を豊富に含み、胃にもたれず、簡単に作れるものがよく、就寝前(22時頃)のアミノレバンENやヘパンED(200〜300kcal)の服用はこれらの条件を満たした栄養補給である。肝不全用経腸栄養製剤にフレーバーをつけ、また、プリンやシャーベットにするなどの工夫も必要である。
患者は、通常、食事は食事、薬は薬と完全に分けて考えており、栄養を摂らねばならないのに、なぜ食事を減らすのかと疑問をもつことが多い。また、経口分岐鎖アミノ酸製剤を内服することの重要性や食事制限の必要性を十分に理解していないため、処方された栄養療法を継続できないことが多い。分岐鎖アミノ酸製剤の長期的投与は、患者の栄養状態のみならず予後をも改善するが、処方された分岐鎖アミノ酸製剤は、毎日内服が継続されなくてはその効果が期待できない。従って、医師と栄養士が協力して栄養指導を行い、患者自身が、栄養治療や薬剤の必要性を十分に理解できるようにすることが不可欠である。