講演 II 「メタボリック症候群と食品の機能性」

講師 お茶の水女子大学生活環境センタ−
教授 近藤 和雄先生

昭和30年代、太っているのは健康優良児の証だった。今は太っていることが様々な病気の要因になっており、それらの病気は一人の人の中で同時に起こっている。病気は「シンドロームX」「死の四重奏」「内臓脂肪症候群」とも言うが、一般には「メタボリック症候群」と呼ばれている。

脂肪細胞の代謝異常からアディポサイトカインが中性脂肪・血圧・血糖に悪い影響を及ぼしている。

食習慣からの影響がメタボリックシンドロ−ムを起こし、動脈硬化に発展していく。言い換えると、食習慣を変えれば病気にならないのである。動脈硬化の危険因子である高脂血症・糖尿病・肥満・高血圧は管理・改善できるものなのである。

血管壁にできたプラ−クが破けて傷を修復するために血栓ができ、梗塞はその血栓が大きくなった場合におきる。脳梗塞もそうである。体内の脂肪にはコレステロ−ル・中性脂肪・リン脂質・遊離脂肪酸があり、全て体に必要なものだが、多くありすぎると体に悪影響を及ぼす。

血中の総コレステロ−ル値220r/dlと決めているのは、冠動脈疾患発症率危険度が右肩上がりになる境目の値だからである。

日本動脈硬化学会において「高脂血症」改め「脂質異常症」に名称を変えることが決まった(世界基準に合わせ、低HDLコレステロール(以下HDL)血症は入れない)。また総コレステロール値ではなく、LDL・HDLで判定基準値にしようと試みている。

脂質異常症の治療には1.食事療法2.薬物療法3.血漿交換などがある。薬物療法で発症率を下げることはできるが30〜40%にすぎない。まず食事療法が大切である。

エネルギーの栄養素別摂取構成比での脂質の摂取状況は1985年より24〜26%であり、同時期、脂肪疾患も横ばいとなっている。ゆえに脂肪の摂り方が重要になってくる。

脂質異常症の食事療法は:(1)脂肪エネルギー比25%以下(2)多価不飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:飽和脂肪酸を3:4:3、(3)n-3系脂肪酸:n-6系脂肪酸を1:4、(4)コレテロール300mg以下になっている。この不飽和脂肪酸であるリノール酸、オレイン酸を摂取することにより血中コレステロール値が低下する。またEPA、DHAには中性脂肪の生成を妨げる効果がある。同じ脂肪でも脂肪酸の違いで心臓病に罹り難くなる。

昨今注目すべきものに中鎖脂肪酸・植物ステロールがある。植物ステロールはコレステロールと構造が似ているため、小腸から一旦は吸収されても、変化することにより排出されるため、脂質として吸収されないのである。

動脈硬化は悪玉コレステロール(LDL)が本当の悪玉コレステロール(酸化LDL)に変化しておきる。抗酸化物質はその酸化を抑制でき、ビタミンE、ビタミンC、βカロテン、ポリフェノールがそれにあたる。ポリフェノールはほとんどの野菜や果物に含まれており、例えば緑茶、レモン、赤ワイン、チョコレートなどに多く含まれる。食事で一緒に摂ることにより腸管の脂肪吸収を抑制する。

本来はエネルギーの貯蔵庫である中性脂肪が増えるとよくないのは、動脈硬化になりやすい環境になるからである。その環境は、レムナント(中性脂肪を多く含むリポ蛋白)が増え、○動脈硬化を起こしやすくなる○LDLが小粒子化して変性しやすくなる○HDLの量が低下する○血栓ができやすくなるなどである。

中鎖脂肪酸n-8〜n-10は水に親和性があり(水に溶ける)体内に蓄積されないで肝臓を経てエネルギーとして効率よく分解される。食事管理下において中鎖脂肪酸を長期摂取することで体重・体脂肪量・腹部脂肪面積(皮下・内臓)が減少した例がある。

アルファ-リノレイン酸(n-3系脂肪酸、体内でEPA、DHAに変換される)には血圧抑制効果がある。それは血管拡張物質(プロスタサイクリン・一酸化窒素・ブラジキニン)を増加させる力があるからで、海外では摂取による血圧低下報告もあがっている。

メタボリック症候群予防・治療には、食事療法や、このような様々な食品をいかに利用するかも大切であることがわかった。

(文責 地活 U.T)

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