第10回大阪府栄養士会研究発表会教育講演要旨
師 滋賀県立大学人間文化学部生活文化学科 助教授 福井 富穂 先生
日本の三大死因はがん・心疾患・脳血管疾患であるが、心疾患と脳血管疾患を合わせた循環器病を引き起こす原因は動脈硬化である。肥満がさまざまな生活習慣病を引き起こし、より動脈硬化になりやすいことがわかってきた。 肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病は、それぞれが独立した別の病気ではなく、肥満が原因である。内臓脂肪型肥満により、さまざまな病気が引き起こされやすくなった状態を「メタボリックシンドローム」という
日本動脈硬化学会など8学会にての検討
腹腔内脂肪蓄積 | |
ウエスト周囲径 男性≧85cm | 女性 ≧90cm |
(内臓脂肪面積 男女とも≧100uに相当) | |
上記に加え以下のうちの2項目以上 | |
高トリグリセライド血症 | ≧150mg/dl |
かつ/または | |
低HDLコレステロール血症 男女とも | <40mg/dl |
収縮期血圧 | ≧130mmHg |
かつ/または | |
拡張期血圧 | ≧85mmHg |
空腹時血糖 | ≧110mg/dl |
脂肪細胞は脂肪を蓄積するだけでなく、多数の遺伝子やホルモン、サイトカイン、増殖因子などを分泌することがわかっている。脂肪細胞から分泌される生理活性物質のことをアディポサイトカインという。 アディポサイトカインには、動脈硬化を予防する「善玉アディポサイトカイン(アディポネクチン)」と、動脈硬化を促進させる「悪玉アディポサイトカイン(PAI-1やTNF-αなど)」がある。正常な状態では、これら善玉・悪玉アディポサイトカインの分泌はバランスよく保たれているが、内臓脂肪が蓄積した状態では、善玉アディポサイトカインの分泌量が減り、悪玉アディポサイトカインが過剰に分泌される。この分泌の乱れが生活習慣病を招き、動脈硬化を進展させると考えられている。
アディポネクチンは脂肪細胞で特異的に合成・分泌されるたんぱくであり、標準的な体格の人の血液中には多く存在し、内臓脂肪が増加すると、反対にアディポネクチンは減少することがわかっている。 アディポネクチンはインスリン抵抗性の改善により糖尿病や動脈硬化を抑制するとともに、動脈壁に対する直接的な作用によっても動脈硬化を抑制し、また、喫煙や血圧・血糖値の上昇、血中脂質・悪玉アディポサイトカインなどによる血管の損傷も修復する。
メタボリックシンドロームは病気の前段階であるため、患者が「病気を予防する」という意識が持てるかどうかが問題である。症例に何年放置とよくあるように、「自分は大丈夫」と気にしない患者は多い。従来通りの啓発ではそのような意識は持てないといえる。 改善策として、健診後の教育を場所や人に関わらず同レベルの指導ができるように連携を図ることがあげられる。そのためには地域で検討会を重ねることが必要となる。
(文責 病院 上村真由)